硬いものを食べれば噛む力は鍛えられる?よく噛める食事のポイントを大崎の管理栄養士が解説【歯科医師監修】
噛む力は歯だけでなく、顎の筋肉・舌・唇・唾液などが連携して生まれるもので、大切なのは食べ物の硬さそのものよりも「自然と噛む回数が増える食事」を続けることだといわれています。
むしろ硬すぎる食品は、歯や詰め物・被せ物に負担をかけることがあります。
ご自身の噛み合わせや歯の状態に合った噛み方が気になる方は、一度歯科医院でご相談ください。
みなさん、こんにちは。大崎オーバルコート歯科・矯正歯科室で管理栄養士をしている山本です。
「噛む力をつけるには、硬いものを食べたほうがいい」——患者さんとの栄養相談やカウンセリングのなかで、よくうかがう言葉です。
たしかに、しっかり噛むことはお口にも全身の健康にも大切だといわれています。
ただ、「硬いものを食べること」と「噛む力がつくこと」は、実は必ずしも同じではありません。
ときには、良かれと思って硬いものを噛み続けたことが、歯や被せ物の負担につながってしまうこともあります。
この記事では、管理栄養士である私が食事・栄養の視点から「噛む力を維持するための食事のポイント」をお伝えしつつ、歯やお口に関する部分は当院の院長・小林の監修を受けながら解説していきます。
毎日の食卓でできる工夫を中心に、無理なく続けられる考え方をご紹介します。
「硬いものを食べれば噛む力がつく」は本当?
まず結論からお伝えすると、「硬いものを食べること」=「効率よく噛む力が鍛えられること」とは言い切れないと考えられています。
そもそも噛む(咀嚼する)という動きは、歯だけの働きではありません。
日本歯科医師会の解説によれば、前歯で咬み切り、奥歯で砕いてすり潰し、舌が食べ物を唾液と混ぜて飲み込みやすいかたまり(食塊)を作り、内側からは舌が、外側からは頬が適度な力で食べ物を奥歯の上に保持する——このように、歯・舌・頬・唾液・顎の筋肉が連携して初めて「噛む」という一連の流れが成り立っています。
硬いものを食べさえすればどこか一か所が鍛えられる、という単純な話ではないのですね。
さらに、顎の機能という観点から見ても興味深い指摘があります。
大阪大学歯学部附属病院の解説では、「顎の機能を維持するために必要なのは食品の硬さではなく噛む回数」であるとされ、硬いものを噛まなくても、必要な回数をしっかり噛めば咀嚼に関わる筋肉への血流は保たれると説明されています。
逆に、強い力で噛み続ける習慣がある人は、加齢とともに歯の耐久性が下がっていくと、最悪の場合、歯が次々に割れてしまうことがあるとも指摘されています。
つまり、「硬さ」を追い求めるよりも「噛む回数」を意識するほうが、噛む力を維持するうえでは理にかなっていると考えられるのです。
硬すぎる食べ物が歯に与える負担(歯科医師・小林の監修)
ここからは、歯やお口への影響について、院長・小林の監修のもと解説します。
噛む動きを支えているのは、咬筋・側頭筋・内側翼突筋・外側翼突筋といった咀嚼筋と、下顎の骨、そして顎関節です。
日本歯科医師会の解説によると、顎関節は下顎頭と下顎窩の間に、クッションの役割をする関節円板を挟んで構成されています。
噛むリズムが乱れて関節円板や下顎頭に大きな力がかかり続けると、変形やずれ、摩耗が生じ、ひどくなると痛みや音、口が開けにくいといった症状を伴う顎関節症につながることがあるといわれています。
こうした構造をふまえると、硬すぎる食品を無理に噛むことには注意が必要だと考えられます。
一般に、氷や硬いおせんべい、キャンディー、ナッツ類などを強く噛むと、歯にヒビが入ったり、欠けたり割れたりするリスクがあるといわれています。
また、キャラメルや水あめ、ガムのような粘着性の高い食品は、詰め物や被せ物が外れる原因になることがあるとされています。
「顎を鍛えよう」と硬いものを積極的に噛むことは、成長期のお子さんならまだしも、歯の耐久性が変化してくる大人の場合はかえって負担になりやすい、という考え方もあります。
そして、院長・小林が診療の現場でいつもお伝えしているのが、「よく噛めるためには、そもそも歯や噛み合わせが健康であることが土台になる」という点です。
むし歯や歯周病、失った歯をそのままにしておくと、噛む力そのものが落ちてしまうことがあります。
1989年(平成元年)に厚生省(当時)と日本歯科医師会が提唱して始まった「8020(ハチマルニイマル)運動」——80歳になっても自分の歯を20本以上保とうという運動——では、20本以上の歯が残っていれば硬い食品でもほぼ満足に噛めることが調査で示されているとされています。
噛む力を維持したいなら、まずは定期検診(https://oval-dc.net/preventive-dentistry)でお口の状態を保つことが、遠回りのようでいて噛む力を保つ近道になると考えられます。
栄養の話と歯の話は、こうしてつながっています。
どんなに噛みごたえのある食材を選んでも、それを気持ちよく噛める歯とお口があってこそ、栄養もしっかり取り込めるのです。
大切なのは「硬い食べ物」より「噛みごたえのある食材」
では、噛む回数を自然に増やすには、どんな食材を選べばよいのでしょうか。
管理栄養士としておすすめしたいのは、無理に硬いものを噛むことではなく、「気づけば自然と噛む回数が増える、噛みごたえのある食材」を取り入れることです。
具体的には、れんこん・ごぼうなどの根菜類、しめじやえのきなどのきのこ類、切り干し大根や高野豆腐といった乾物、こんにゃく、枝豆、そして白米に麦や雑穀を混ぜた雑穀ごはんなどが挙げられます。
農林水産省も、噛む回数が多かった戦前の食事に多い麦などの雑穀、根菜類、乾物といった「噛みごたえのある食材」を選ぶとよいと紹介しています。
なぜこうした食材が噛みごたえにつながるのか——ここには、野菜など植物性食品ならではの理由があります。
独立行政法人農畜産業振興機構の解説によれば、野菜の細胞を取り囲む細胞壁は、セルロースやヘミセルロースといった食物繊維でできており、これらは人の消化酵素ではほとんど分解されません。
そのため、しっかり噛み砕いてから飲み込む必要があり、それが自然な噛みごたえを生むのです。
そしてうれしいことに、これらの食材は食物繊維が豊富です。
厚生労働省 e-ヘルスネットによると、食物繊維は「水に溶けず便のかさを増して腸の動きを助ける」不溶性と、「水に溶けて血糖値やコレステロールの上昇を防ぐ」水溶性に大きく分けられ、穀類・いも類・豆類・野菜類・きのこ類・果実類・海藻類などに含まれています。
食物繊維は小腸で消化されずに大腸まで届き、腸内細菌に利用されて整腸に役立つほか、生活習慣病の発症リスク低下との関連も報告されているとされています。
「硬いものを頑張って噛む」のではなく、「噛みごたえのある食材を選んだら、自然と噛む回数が増えていた」。
この形が、無理なく続けられる理想だと私は考えています。
よく噛むことが、消化や食べ過ぎ予防を助けるといわれる理由
よく噛むことのメリットは、噛む力の維持だけにとどまりません。
栄養の視点から見ても、噛むことには嬉しい働きが期待できるといわれています。
ひとつは、唾液の働きです。
厚生労働省 e-ヘルスネットによると、唾液に含まれるα-アミラーゼという酵素はデンプンを麦芽糖に分解して消化を助けます。
さらに唾液には、口の中をきれいにする自浄作用、酸を中和して歯が溶けるのを抑える緩衝作用、抗菌作用、歯や粘膜を守る作用などがあるとされています。
よく噛んで食べ物と唾液がしっかり混ざり合うことが、消化やお口の健康の維持を支えていると考えられます。
もうひとつは、食べ過ぎの予防です。
農林水産省の資料では、よく噛んでゆっくり食べると速食いが防止されて満腹感を得やすくなり、肥満予防につながると紹介されています。
ゆっくり味わうことで、うす味・適量でも満足感が得られるともいわれています。
また、35〜69歳の成人を対象とした疫学調査では、速食いの習慣がある人はBMIが高い傾向にあることが示されており、ゆっくりよく噛むことは肥満対策の行動療法「咀嚼法」として『肥満症診療ガイドライン』に位置づけられていると報告されています。
そのしくみについては、査読付きの総説論文でも、咀嚼による刺激が脳内の神経系を介して満腹中枢に働きかけ、食べ過ぎを抑えると同時に内臓脂肪の分解を促す、という考え方が示されています。
もちろん、これらは食事だけで体重が「必ず」変わるという性質のものではありませんが、「ゆっくりよく噛む」という毎日の習慣が、栄養や体調の管理を助けてくれると期待できるのは、心強いことだと思います。
今日からできる、よく噛むための食事の工夫
ここまでの内容をふまえて、毎日の食卓ですぐに試せる工夫をまとめます。
どれも特別な道具はいりません。
1. 噛む回数を意識すること
厚生労働省の検討会は2009年に、一口30回以上噛むことを目標とする「噛ミング30(カミングサンマル)」というキャッチフレーズを提唱しました。
とはいえ、最初から30回はなかなか難しいものです。
厚生労働省の保健指導用の教材では、「食べ物を一口入れたら、箸を置いて、いつもより5回多く噛むようにしましょう」という始め方も紹介されています。まずは「箸を置く」——これだけでも噛む回数は自然と増えていきます。
2. 食物繊維の豊富な食材を取り入れること
先にご紹介した根菜・きのこ・乾物・雑穀などを、いつもの献立に一品足すイメージです。
3. 食材を少し大きめに切ること
乱切りにする、繊維を断ち切りすぎないなど、ほんの少し切り方を変えるだけで噛む回数は変わってきます。
あわせて、農林水産省がよく噛む工夫として挙げている「ながら食べを避けて食事に集中する」「一口の量を少なくする」も、今日から取り入れやすい方法です。
4. 左右バランスよく噛むこと
どちらか一方ばかりで噛む癖があると、負担が偏ってしまうことがあるといわれています。
左右を意識して使うようにしましょう。
5. 水やお茶で流し込まないこと
飲み物で流し込むと噛む回数はどうしても減ってしまいます。
まずはよく噛んで、味わってから飲み込む——この順番を大切にしてみてください。
噛む力の維持に大切なのは「よく噛める食事」を続けること
噛む力を維持するうえで大切なのは、「硬いものを無理に食べる」ことではなく、「よく噛める食事」を毎日続けることだと考えられます。
硬さそのものより噛む回数を意識し、噛みごたえのある食材を選び、ゆっくり味わう——この積み重ねが、遠回りのようで確かな道だといえそうです。
そして噛むことは、お口の健康だけでなく、栄養の摂取や消化の助け、食べ過ぎの予防など、全身の健康にもつながるといわれています。
その土台になるのが、健康な歯と噛み合わせです。
栄養と歯科、その両方の視点からサポートできる体制を、当院では大切にしています。
よくある質問
顎の機能維持に必要なのは食品の硬さより噛む回数だと指摘されており、硬すぎるものを強く噛み続けると歯が割れることがあるともいわれます。
硬さを追うより、噛みごたえのある食材で噛む回数を増やすことをおすすめします。
キャラメルやガムなど粘着性の高いものは詰め物や被せ物が外れる原因になることもあります。
気になる癖がある方は、一度かかりつけの歯医者さんにご相談ください。
厚生労働省の教材では「一口入れたら箸を置き、いつもより5回多く噛む」という始め方が紹介されています。
まずは箸を置くことから習慣にすると、噛む回数は自然と増えていくといわれています。
ただし、ゆっくりよく噛むと満腹感を得やすく食べ過ぎ防止につながるとされ、肥満対策の行動療法「咀嚼法」として診療ガイドラインにも位置づけられていると報告されています。
体重管理を助ける習慣のひとつとして期待できると考えられます。
無理をすると装置の破損や痛みにつながることもあるため、自己判断せず、担当の歯科医師や歯科衛生士、管理栄養士にご相談いただくと安心です。
まとめ・ご相談のご案内
「最近噛みにくい」「よく噛める食事を続けたいけれど、自分の歯やお口の状態が心配」——そんなふうに感じたら、それがかかりつけの歯医者さんにご相談いただくタイミングです。
むし歯や歯周病の有無、噛み合わせ、詰め物・被せ物の状態などを確認し、必要に応じてケアや検診をご案内します。
痛みや詰め物の脱離、噛むと違和感がある場合は、早めの受診をおすすめします。
当院では、歯科医師・歯科衛生士に加えて管理栄養士が在籍し、お口の健康と食事・栄養の両面から患者さんをサポートしています。
「どんな食材をどう食べればよいか」といった管理栄養士による栄養相談(https://oval-dc.net/nutritionist)やカウンセリングも承っておりますので、お気軽にお声がけください。
お口や食にまつわる話題は、当院の歯の豆知識コラム(https://oval-dc.net/diary-blog/歯の豆知識)でも発信しています。
ご予約・ご相談は、初診ネット予約またはお電話で受け付けています。
初診ネット予約:https://oval-dc.net/reservation
お電話:03-5739-1625
アクセス:JR大崎駅 徒歩4分/東京都品川区東五反田2-16-1 ザ・パークタワー1F
この記事を書いた人
山本(やまもと)/大崎オーバルコート歯科・矯正歯科室 管理栄養士
管理栄養士として、食事・栄養の面から患者さんの口腔と全身の健康づくりを支えています。
本記事は食事・栄養の観点を中心に執筆し、歯に関する医学的内容は院長・小林の監修を受けています。
監修者
小林 伸(こばやし しん)/大崎オーバルコート歯科・矯正歯科室 理事長・院長(歯科医師)
2016年に医療法人社団KDSを設立し、理事長に就任。
所属・認定・資格等:ITI公認インプラントスペシャリスト、日本臨床歯周病学会 歯周病認定医、日本顎咬合学会 咬み合わせ認定医、インビザライン・ドクター
本記事の歯に関する内容は、歯科医師である小林が監修しています。
参考文献
・日本歯科医師会 テーマパーク8020「かむ、食べる、味わう」(監修:日本大学歯学部摂食機能療法学 教授 植田耕一郎)https://www.jda.or.jp/park/function/index08.html
・日本歯科医師会 テーマパーク8020「顎の構造」(監修:日本歯科大学生命歯学部 解剖学第一講座 教授 佐藤巌)https://www.jda.or.jp/park/function/index02_2.html
・大阪大学歯学部附属病院 口腔総合診療部 副部長 長島正「【お口のマメ知識】食事の時に噛む力について」ResOU(大阪大学)https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/story/2017/mame_vol6-1
・安藤雄一(国立保健医療科学院)「速食いと肥満の関係―食べ物をよく『噛むこと』『噛めること』」厚生労働省 e-ヘルスネット https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/teeth/h-10-002.html
・野村義明・星佳芳「歯・口の機能」厚生労働省 e-ヘルスネット https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/teeth/h-01-001.html
・安藤雄一(国立保健医療科学院)「8020運動とは」厚生労働省 e-ヘルスネット https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/teeth/h-01-003.html
・農林水産省 第4次食育推進基本計画 啓発資料「ゆっくりよく噛んで食べていますか?」https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/plan/4_plan/togo/html/part6.html
・農林水産省 消費・安全局「ゆっくり食べる」(みんなの食育ナビ)https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/minna_navi/topics/topics4_02.html
・坂田利家「肥満症防止と治療における咀嚼の臨床的意義」日本味と匂学会誌 13巻2号(2006年)https://www.jstage.jst.go.jp/article/tasteandsmell/13/2/13_KJ00004361866/_article/-char/ja/
・厚生労働省 歯科保健と食育の在り方に関する検討会「歯・口の健康と食育~噛ミング30(カミングサンマル)を目指して~」報告書(2009年)https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/07/dl/s0713-10a.pdf
・厚生労働省 保健指導用教材 D-35「あなたは何回噛んでいますか?」(2007年)https://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/03/dl/s0326-10m-013.pdf
・清水純「食物繊維の必要性と健康」厚生労働省 e-ヘルスネット https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/food/e-05-001.html
・厚生労働省 e-ヘルスネット 用語解説「食物繊維」https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/food/ye-016.html
・新井映子「噛むことの大切さを見直そう~野菜の効用と食べるタイミング~」独立行政法人農畜産業振興機構『野菜情報』2021年7月号 https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/wadai/2107_wadai1.html
免責事項
本記事は、噛む力や食事・栄養、お口の健康に関する一般的な情報の提供を目的としたものであり、特定の診断・治療・効果を確約・保証するものではありません。
効果の感じ方には個人差があり、お口や体の状態によって適した方法は異なります。
症状や不安がある場合は自己判断で対処せず、歯科医院や医療機関を受診し、担当の医療者にご相談ください。
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